書評

【書評】合成生物学の熱と闇

ビル・ゲイツも注目する分野

マイクロソフト社の創始者ビル・ゲイツ

「もし私がティーンエイジャーだったら、生物学をハッキングするだろう」

とインタビューで語っていたというのを知って

あのゲイツがそう言うなら、バイオ関連もチェックしとかなアカンな

と考えこの本を読んでみた。

須田桃子著「合成生物学の衝撃」

結果、激熱だが闇も深った。

1,766憶6,000千万円の市場

冒頭に、合成生物学に関連するアメリカの企業50社が2017年に調達資金の合計は

17億ドル以上になったとあり、(日本円で約1,766憶6,000千万円!)

バイオ関連熱いやんけ!と思ったけれど、読み進めていくと、

  • 軍事利用や環境への影響の問題
  • 研究費と研究を進捗する事の板挟みになる研究者の苦悩
  • 生命を作り出す事への倫理的な問題

等、滅茶苦茶シリアスな事が書かれてあった。

 

GPSやインターネットだって軍事技術が民生利用された例で

今の生活に欠かせないものだから、心配し過ぎても仕方ないじゃんって

思いながら読んでいたけれど、作中で

「合成生物学のような技術は良くも悪くもない、単なる技術。

科学者はどう使われるかコントールできない、それを決めるのは社会、そして一般人だ。

普通の人は理解できないので決定するのは難しい。それは議員も同じ。

科学者が政策が決まる議論に参画する責任がある。」

という研究者の言葉が紹介されていて、自分も無関係ではない問題なんだなと思った。

最近こういう分野多くない?

ちなみに、新規の科学技術が登場した時に、その使い方をめぐる議論と意思決定に

一般人が参加する事をパブリック・エンゲージメント(市民参加)という。

少し調べてみたけれど、日本における成功例として日産が紹介されていた。

ブログやSNS上でクオリティの高いコンテンツを使ったデジタル広報活動を始めたらしい。

ウェブサイトで一方的に情報を発信するんじゃなくて、

自分達の意見も書き込めて双方向に情報のやり取りが出来るから良いことだとおもう。

逆に企業からしたら商品ではなく、技術の情報発信を一般人にする事で

新たなビジネスチャンスにつながる事だってあると思う。

 

唸れ、遺伝子ドライブ

遺伝子ドライブという技術がある。

この技術の実用例として、外来種の遺伝子をいじって雌が生まれない個体を作り、

そいつを野に放して外来種が子供を作ると、雄ばかりになってやがて外来種が絶滅する。

外来種による在来種への侵略を防いだり、マラリアやエボラ出血熱の病原体を

人体に運ぶ蚊を絶滅させる事が期待出来る。

しかし、遺伝子をいじった外来種を放した事による影響がそれだけに

とどまるとは100%言い切れないので実用するにはまだまだ課題があるらしい。

WHOの報告書によると、マラリアだけで2015年に全世界で42万人以上の死亡者が

出ていて、死亡の7割は5歳未満の子供だ。

僕は素人だから、早く遺伝子ドライブしてしまえばいいのに、

と思ったが軽率すぎるだろうか?

 

もっと身近な例として、情報が外部に開示されていない研究室から

遺伝子改変された研究用のハエが一匹外部へ逃げたとする。

環境に全く影響を与えないかもしれないし、とんでもない影響を与えるかもしれない。

しかしもそれが、一般人の知らない所で起こってしまう。

というような出来事が将来起こるかもしれないし、

すでに起こっているのかもしれない、

映画や小説なんかのシチュエーションが現実に出来上がっていると考えると恐怖だ。

 

他の学問、例えば人工知能にも人間の知能を再現する事の

危険性や倫理的問題があるけれど、それ以上に倫理的な問題、

軍事利用の危険性、環境への影響等、研究を進めるうえでのハードルが大きく、

さらに研究費の確保、世間の風当たり等研究者を取り巻く状況がかなりシリアスで、

がんじがらめな状態なので頭のネジが数本飛んでる人間じゃなければ

研究を続けられないんじゃないかと思った。

綺麗事言ってたら研究進まない状態。

ちなみに、この遺伝子ドライブを開発した研究者は最初、

国防総省からの資金援助は受けない、というスタンスをとっていたが、

(要は軍事使用のための研究開発を恐れた)

方針を翻してDARPAという国の機関のプログラムに応募し選ばれていた。

インタビューで

「防衛予算を使えば、その分爆弾やミサイルへの投資を少なくできる。」

という苦しい言い訳じみた事を言っている。

応募する前に彼の上司や恩師、中立で募集しているはずのDARPAからも

応募するよう説得があったらしい。

研究には莫大な金がいる。研究者が企業からの出資を受けると、

研究が出資者の意向に沿った物になるため、研究者が自由に研究出来なくなる。

研究者は資金の調達・管理まで考えないといけない大変さが、

遺伝子ドライブの研究者の話一つからもよくわかる。

僕は起業したお陰で好きな事だけしていられるし、嫌な上司も出資者もいないので

つくづく幸せだと思った。

異端者ベンター

SF作品でよく出てくる「無から生命を作り出す」技術の研究が進み、

「ミニマル・セル」という人工生命体がすでに生み出されていた。

しかもミニマル・セルを作ったのはクレイグ・ベンターという個人が作った研究チームで、

国の機関が主導する公的チームより先んじて作ってしまったという熱い展開

こういう話しでいいんだよ、こういうので

ミニマル・セルは皿の上に乗った細胞なので、犬とか猫のような動物と比べると

しょぼいと思われるかもしれない。

具体的にいうと、培養皿の上に青色の細胞のコロニーが出来ていて、

世界最高峰の頭脳を持った大人たちが喜んでいる図だ。

(・・・やっぱり地味か?)

しかし過去の技術開発の歴史を見ていくと、シリコンバレーや

AIのディープラーニング等の技術的ブレークスルー(技術躍進)の可能性を考えれば、

素人の感覚だが、数10年後に人間を作る技術が確立したという発表が

あってもおかしくはない。

人工生命体を作り出した学問の分野を合成生物学と言い、

生物の構成要素を部品に分けて、部品を作り、交換し、そぎ落としていく事で、

今まで存在しなかった生物を工学的に作り出すという手法が取られていた。

今アメリカの企業から最も注目されている分野とされているが、

生物を機械のように扱い人工生命体を作り出す行為が、

生命の軽視につながるとか倫理的な問題が指摘されている。

最近こういう・・・

最後に個人的に興味をもったので、

人工生命体を初めて作ったチームのリーダー

クレイグ・ベンダーという研究者を紹介したい。

ベンターはカリフォルニア州で出身で、学校の成績は非常に悪く、

高校生時代には母親から時々、腕にドラッグの注射痕がないかチェックされていた。

最初からパンチが効いたエピードだ。

ベトナム戦争時に徴兵され、20歳で海軍の衛生兵として従軍し、

その時の経験はベンターの心に深い傷を残し自殺を考えるようになった。

一度入水自殺するために沖に向かって泳ぎだしたが、

途中でサメに取り囲まれ思いとどまったという。

 

自殺する人間の心理はわからないけれど、ここはちょっと笑ってしまった。

僕の小学生の頃の思い出話しだが、修学旅行で広島へ行き海で泳ぐ機会があったので、

砂浜から小さい島へ向かって泳いでいたら船が近づいてきて、漁師さんが

「この辺はサメが出るからこれをつけなさい」

とライフジャケットを貸してくれた。

「なんていい人なんや」

とその時は感謝したが、後で冷静に考えると

サメとライフジャケットってあんまり関係なくね?船に乗せてくれた方が・・・

っていう出来事を思い出した。

閑話休題、

ベトナム戦争の経験から生命に強い興味を持ったベンターは、

大学へ進学し研究者を目指し、教授職を経て1984年に米国立衛生研究所(NIH)に

入所した。

落ちこぼれがエリートになってしまうくらい戦争の経験は人を変えるのか。

そういえば最近自衛隊の志願者が激減しているというニュースをみた。

幹部ではなく前線にいく”士”が足りていないらしい。日本は少子化が進んでいるので、

将来徴兵制になる可能性もゼロではないと思う。

ベンターはNIHで新技術により数千個ものヒト遺伝子を発見し、

それを彼の名で特許申請してNIHともめた。そして所長と激しく衝突した

これをきっかけに1992年に非営利の研究所を設立し、

1995年に細菌のゲノム解析に世界で初めて成功した

しかし1997年にデータの公開をめぐるいざこざが原因で出資者と手を切った。

(この人もめてばっかやな)

1998年研究機器メーカからヒトのゲノム解析を持ち掛けられ

セレラ・ジェノミクス社を設立。

同社は米政府が30億ドル(今の日本円で3,302憶円)の資金を投じて進められていた

公的な計画「ヒトゲノム計画」を追い越してショウジョウバエとマウスのゲノム解析に

成功した

ベンターはその過程で、こうした研究は利益の追求ではなく、

知の追求に動機付けされるべきだと批判されたらしい。

さらに、セレラ社を解雇されたので新たな研究所を立ち上げ

現在環境ゲノミクスという分野に取り組んでいる。

 

僕はベンターの生き方を支持する。

研究者となってからは、成功し、揉めて、組織を離れて

を繰り返し常に批判にさらされているが、

研究したいから自分で研究所を立ち上げて、資金を稼いでやっている事の

何が悪いんだろう、というのが率直な感想だ。

ベンターは研究成果を出してお金を稼いだ。

お金を稼ぐ事に善も悪もない。価値提供をした結果だ。

ネットビジネスをやっていると、怪しいだとか、

せどりは転売してるだけだとかいう意見をたまに聞くけれど、

ちゃんとお客さんに価値を提供してその対価をもらっているだけだし、

商社だってやってる事は転売だ。

僕はベンターの生き方に共感したし、かっこいいと思った。

 

この本を読んで、投資や研究費の額の桁がおかしいバイオ関連の業界が

予想以上に激熱闇が深いという事が分かって本当によかった。

みんなにも合成生物学の熱と闇を是非知ってほしい。

 

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